クラッシュ・ラブ
「……大丈夫じゃなさそうだから」
いつも、下から見上げてた。それは今も変わらない。でも、こんなに近い距離で見るのは初めて。わたしを再び混乱させるには充分な状況だ。
『落ち着け、落ち着け、落ち着け』と何度も心の中で念じると、目を開けたときにはリビングにいた。
そっと丁寧にソファに下ろされたわたしは、反射的に彼の背中を掴んでいたらしい。慌ててその手を離すときに、ふとテーブルの上のものが目に入り、思い出す。
「あ」
「……ん?」
目の前の“それ”に手を伸ばし、ユキセンセに差し出した。
「メガネ……忘れましたよね? 大丈夫でしたか?」
ユキセンセが外出してから、見つけた黒縁メガネ。
寝てるとき以外は必ず掛けていた気がしたから、ちょっと心配だったんだけど。
「あっ……こ、コンタクトですか? もしかして。だったら、心配なんて無用でしたね!」
やけに饒舌になってしまうのは、膝まづくようにして、じっとソファに座るわたしを
上目遣いで見つめてくるから。普段、身長差もあって、わたしが顔を覗きこまれるなんてことないし。
さっきは上から、今は下から。目まぐるし色々な角度から見られることなんかなかったし、こんなに近い距離にずっと居られることだって、ない。
手の中のメガネ一点を見ながら、必死でこの場を取り繕う。
「コンタクトって、怖くないんですか? わたし、目にレンズ入れるなんて怖くて」
「コンタクトはしてないよ」
「えっ……あ、そう……なんですか……じゃあ、コレ」