クラッシュ・ラブ
「初めにここに来たときに思ったから……。『なんでリビングで仕事してるのかな』って」
デスクを挟んで目を合わせる。
雪生は、固まったままなにも言わないし動かない。
真っ直ぐに見つめられ続けると、恥ずかしくなってくる。
わたしは、ふいっと顔を逸らしてキッチンに向かった。
「……でも、リビング(ここ)だとみんなの姿が見れるので、わたしはうれしいです」
照れ隠しで、下を向きながら飲み物を用意する。
外が暑くて喉が乾いていたけど、今はその理由よりも、雪生との時間に舞い上がってるからかもしれない。
「あ。わたし、アイスティー飲みますけど、なにかいりま――」
「オレも、知りたいんだけど」
振り向いたら、すぐそこに雪生がいて――。
もうすぐ近くにいるのに、彼はまだわたしとの距離を詰めてくる。近ければ近いほど、雪生を見上げる首が少し痛い。
手にしていたティーパックが、わたしの手からカサリと落ちる音が聞こえる。
でも、わたしも雪生も、その音の先を見るわけでもなく。
時計も、テレビの音も、なにも聞こえないこのリビングは、本当に時間が止まってるような錯覚を起こしそう。
だけど、『止まってなんかないんだ』と自覚させられたのは、目の前の雪生の手が、スッと伸びてきたから。
「もっと、美希のこと」
「わ……たし?」
人指し指の裏で、そっと頬を撫でられる。それだけで、ぞくりとした感覚が襲ってくる。
それは、嫌悪感からじゃなくて、むしろ――――。
「わたしなんか! 別に仕事してるわけじゃないしっ……なんの取り柄もない、フツーの……フツー以下の、大学生ですけど」