クラッシュ・ラブ
――――耳を疑った。
だって……だって、そんなこと、生まれてこのかた、一度も言われたことない。
「黒髪もキレイ。下ろした姿も可愛い」
ちょ、っと……そんなこと、言われたら……!
面と向かって褒められることなんて、滅多にない上、それが男の人で、しかも好きな人で。
完全にテンパってしまったわたしは、きっと、りんごのように真っ赤だろう。
もう雪生の顔をまともに見られない、と、顔を隠すように俯いた。
でも、顎に添えられた手に、容易く持ち上げられると、再び目が合ってしまう。すると、彼は、妖艶な瞳で唇を動かした。
「――――キス」
その言葉を合図かのように、雪生は長い睫毛を伏せ、唇を重ねた。
優しく、唇で噛むようにわたしの口を捕らえられると、すぐに力が抜けて半開きになってしまう。
雪生はその隙に、するりと奥へと入ってくる。
“大人の”キスなんて、わたしはまともに経験したことないから。
必死になって、雪生についていこうとは思うのだけど――。
「――――っは……ぁ」
息継ぎとか、手の所在とか。まったくどうしていいかわかんない。頭、真っ白。
自然と雪生にしがみつくような態勢で、まるで食べられているような感覚で身を任せる。
「んん……ッ、ふ」
自分が自分じゃないような、そんな甘い声に驚きながら、反面酔いしれてる自分がいるようで。
ようやく離れたあとは、涙目になってる目を薄らと開ける。
――今、わたしはどんな顔を雪生の前でしてるんだろう。