クラッシュ・ラブ
「資料とか、ありますかー?」
「ああ、その辺に刷り出しがあったはず……」
雪生がきょろきょろとなにかを探してる。
「刷り出し」、ってものなんだろうけど、どういうものだろう?
それらしきものを想像するけど、ピンとくるわけなくて。
無言でわたしも辺りを見ていると、雪生の視線の先にあるものに気がついた。
『きっとこれだ』と思って、対面キッチンの枠の隅に置いてあった冊子のようなものに手を伸ばそうとした。
「あ。見つけました!」
その手よりも早く、探してるものを手にしたのは杏里ちゃん。
彼女は、無邪気な笑顔と声でそれを雪生に見せるようにすると、ほんとに一瞬だけ――。
横目でわたしを見た……気がした。
……もしかして、対抗意識みたいなものを――燃やされてる……?
そんなこと、今までされたこともないから、ただ戸惑うだけで。
それに、確証がない。単なるわたしの思いこみかもしれない。
そう考えてやり過ごしていた。
それから数十分経った頃。
作業を始めたときに、大きいクリップで器用に髪を纏めた杏里ちゃんが顔を上げた。
「出来ました! チェックお願いします、ユキ先生」
杏里ちゃんは、一枚の原稿を雪生に手渡すと、ご機嫌な様子で自前のインクボトルのようなものを開けていた。
やる気満々の彼女を見ると、正直、少し羨ましい。
でも、『自分には出来ないこと』と、割り切って。わたしは、この前雪生が着ていたYシャツが、洗ったままだったのを見つけて和室に向かった。