クラッシュ・ラブ

「……うん。大丈夫そう。ありがとう」
「あ、じゃあペン入れますね!」
「ああ。それは大丈夫」
「えっ……?」


ずっと、二人の様子を見ているわけじゃないから、杏里ちゃんがどんな顔をしているのかはわかんなかった。でも、明らかに声が動揺してたから、思わずアイロン準備の手を止めて顔を向けてしまった。


ペンを入れる、入れないとか、なんとか……。


そのとき、ピーッピーッとコピー機の警告音が鳴り、雪生が椅子を回転させた。


「……あー、紙詰まり……。美希」
「は、はい」
「仕事部屋から、あたらしいコピー用紙持ってきて貰える? 少なくなってくると、いつもこうだ」


わたしは、頼まれたコピー用紙を素早く持ってくると、それを床に座って機械を覗きこむ雪生に手渡した。


「ありがとう」


お礼を言われ、自分の用件は済んではいたけど、わたしは少しその場に留まって様子を見ていた。
「いつもこうだ」と言ってただけに、雪生は手慣れた感じで機械を弄る。


「……よし」


そしてすぐに聞こえたいつものセリフ。
解決したとわかったわたしは、くるりと体を翻し、和室へと一歩踏み出した――――と、同時だった。


「きゃあ!」


その声はわたしじゃない。
――――杏里ちゃんのものだ。


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