クラッシュ・ラブ
「――――きみが、興味あるかな? と思って」
興味と言われたら、確かにあるけれど……。
漫画をさほど読みもしないわたしが、雪生と出逢って。そうしたら、全然知らないことだらけで。そういう雪生って、どんな世界にいるか、とか、昔の雪生はこんなだった、とか。知りたいし、気になるっていうのは、至極普通のことだと思う。
「……まぁ、なくはない……ですけど」
歯切れ悪い返事を返すと、スイっと雑誌を奪われた。
「俺ね。この、“投稿時代”から、春野センセにはお世話になってるんだよねぇ」
鋭い目を、さらに細められると、なんだか背筋が伸びてしまう。
彼は、ガシャッと音を立てながら、今作ったばかりの机のスペースに紙袋を置いた。
「直接会ったことは当時、もちろんないし? でも、いっつも誌面で名前が並ぶから、いやでも覚えたよ」
中くらいの大きさの紙袋はそのままに。
外崎さんは、わたしに一度手渡した漫画誌一点を見つめたまま、すらすらと単調に続ける。
「んでもってさ。名前が並ぶのはいーんだけど、いっつもあっちが前に並ぶワケ。“15歳、春野ユキ”がさ」
なんだか、段々雲行きが怪しい気がする――。
直感でそんな雰囲気を感じ取ると、彼を見るのが怖くなって、近くの本棚に何気なく視線を逸らした。
その本棚にも、たくさんの本が陳列されていて。
机の上とは相反して、ものすごく几帳面に並べられた漫画たち。
「そっから、俺の闘争心ってやつに火ィ点いたんだけど。それが、まだ継続中っつーか。ね?」
背表紙が綺麗に揃えられてるものに逃げるように、わたしの目はそこだけに集中する。
もちろん、知らないタイトルばかりだけど、そんなの関係なし。
だけど、そこに、唯一知ってる作品を捕らえた。
「で、もーなんか、まともにやってもどうにもならない気がして。だから、“ミキちゃん”なワケ」
「――――は……?」
思わず名前を呼ばれて、外崎さんを見てしまった。
目に映る彼は、確かに笑っているはずなのに、どうしても受け入れられない笑顔に見えた。