クラッシュ・ラブ
いくら、長年の付き合いでも、これは許せない。
何気ない一言にも聞こえるけど、受け取る側次第では、胸に刺さる言葉だ。
「……だったら、お前が変われ」
「は……?」
最高潮に頭に血がのぼってるこのタイミングの悪いときに、一本の電話が入った。
着信音は、オレの携帯。
さっき、家を飛び出したときに放ったまんまの、ソファの上の携帯が、“休戦”しろと言わんばかりに鳴り続ける。
――電話は100%、美希じゃない。
だったら、今は出られる心境なんかじゃない。
あまりに鳴り止まない携帯に、視線を向けた。すると、信じられないことに、澤井さんが電話を手にした。
そして、ディスプレイに目をやって、何食わぬ顔をして電話に出る。
「もしもし」
「ちょっ……勝手に!」
「おお。そう、澤井。え? なに? あ、そう。ちょーーど良かったわ。じゃ、すぐ来て」
まるで自分への電話だったかのようにさらりと会話をし、ものの数秒で通話を切ってしまった。
そんなの出来る相手って言ったら……カズあたりかな。
一方で冷静にそう分析しながらも、一度走り出している感情までは緩和されない。
そのことをわかっているからだ。澤井さんがこんなふうに言った。
「第三者。交えた方がいいだろ、今のユキなら」
「カズが来たって誰が来たってオレはっ」
「誰が来たって同じなら、別に問題ないだろ? あ、来たな」
インターホンの音が澤井さんの語尾に掛かり、電話に続いて彼が解錠した。
「こんちはーッス。すみません、なんか急に。近くに来てたんで、なんかもう作業とかあるかなーなんて思って電話してみたんス……け、ど」