クラッシュ・ラブ
「作者に合わせた線じゃなきゃ、いくら背景とはいえ“浮く”んだよ。だから、裏を返せば、ペン入れを許可する相手の方が少ないんだろ」
……? それってどういう意味だろう。
難しい専門用語があるわけじゃないけど、意味がイマイチわからず、ピンとこない。
「作者に合わせた線」じゃなきゃ、「浮く」……?
「それくらい、ヤツはペンタッチの違いに気をつけてるはず」
「違いに気をつけてる」から、「許可する相手の方が少ない」??
わたしの頭がついていけてないのになんか構わずに、どんどんと話しだす。
「ま、確かに『無意味』かと言われればそうかもしれないけど。ただ、杏里と比べてどうのこうのっつーのは違うと思うけど。俺は」
何度、『頭の中で一度整理してみよう』と、外崎さんの言った言葉を並び替えて見ても、全然しっくりと来ない。
そんな中途半端な顔を、あからさまにしていたんだろう。
彼は、それに気付いて「はぁっ」と勢いよく短い溜め息を吐くと、腕を組みながら言った。
「例えば、だ。主人公が繊細な線で描かれている背景(バック)が、ものすごい太めの、存在感丸出しな線だったら。アンタならどっちに目が行く?」
「……え? え……と、たぶん……バック、かな」
「そういうこと」
……つまり? 雪生の絵柄のペンタッチを殺さないように、且つ、自然になじむように描かなきゃならないってこと……?
「だからって、ただ細い線だけで描けばいいってもんでもない。背景にだって奥行きとか、そのシーンの雰囲気があるから。“情報”としてだけじゃなく、“情景”を描いて欲しいんだろ」