クラッシュ・ラブ

そう説明する外崎さんを見る。
その姿は、やっぱり雪生に似ているものがあって。見た目とか、言葉が、とか。そういうんじゃなくて。
もっと、内面的な、なにかが。


「モブにしてもそう。その作家に“ハマる”モブとそうでないのとあるから」


……「モブ」って、何度もカズくんたちの会話で聞いたな。どういうものを指してるんだろう?

その疑問が外崎さんには通じたようで、彼はなにも言わなくても教えてくれた。


「“モブ”っつーのは、カンタンに言えば、エキストラみたいなもん。通行人とかそういうの」
「あ……そうだったんだ……」
「命が吹き込まれたようなモブなら、そのコマが生き生きとするんだ」
「……すごく、深い」


流して読めば、ほんの数秒……下手すれば、コンマ何秒の世界かもしれない。
その一瞬しか見られていないかもしれない世界を、この人たちは、拘って拘って……。


「だから面白れぇんだ、この仕事は」


視線を横に逸らして、「ふっ」と軽く鼻で笑う外崎さんが、どことなくうれしそうな、楽しそうな顔をしていた。

外崎さんが説明をしてくれたことを、全部理解できたのかは自分でもわからない。
漫画家という仕事をしている彼らの言葉を、どれだけわかったのかは――。

それでも、今ここで練習を重ねたところで、事実なんの意味もなさないことは理解したつもり。


「――あの」


さっきまで使っていたペン先のインクをティッシュで拭きとりながら、背後にまだ立っているであろう外崎さんに問いかけた。

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