クラッシュ・ラブ
「……なに」
「この仕事の難しさは……わかったつもりです。でも……でも。それでも、素人のわたしが、出来ることってないんですか?」
ふざけたやつだと思われるかもしれない。それでもいい。
迎えに来てくれた雪生の手を、握らずに別れたときに決めたんだから。
納得行くように努力をしてから、彼の元に戻ろうって。
「…………」
「……やっぱり、都合良すぎますか。そんな“出来ること”なんて」
「いや――――」
長い沈黙に、再び彼の顔を窺うと、少し驚いた目を向けられているのに気がついて言った。
けれど、それを否定し始めるように開口する。
「第一印象とだいぶ変わったと思って……」
細い目を大きくしているところを見ると、本当に驚いているんだとわかった。
この人の第一印象が一体どういうものかはわかんないけど。きっと、“大人しい”
とか“自分の意思を持たない”とか。そういうイメージかもしれない。
「自分でも……そう、思います」
今まで、『変わりたい』ってなんとなく思ったことがあっても、結局はなにもせずに現状で満足していた。――いや、“していた”というか、そう“思いこむようにしていた”のかも。
今回の件も、同じようになにもしないでいたら。
そうしたら、雪生の隣にいることを諦めることに繋がってしまう。
それを考えたら、迷うことなく一歩踏み出していた。
『雪生の役に立ちたい』。
なにも持ってないと思ってたこんなわたしの存在を認めて、尊重してくれる彼の隣に、胸を張って居られるように。
いつの間にか、外崎さんと正面から視線を交錯させても動揺しなくなったのは、彼が実は悪い人じゃないって思うようになったから――だけではないと思う。
自分の中で、“覚悟”にも似た決意が、こうしてピンと背筋を伸ばして真っ直ぐに目を逸らさずに居られる原動力になっているんだ。