クラッシュ・ラブ
その「これ」とか「こういうこと」とかがピンとこないわたしは、きっと間抜けな顔をしてたんだと思う。
わたしの表情を汲み取ったカズくんが、笑いながら補足してくれた。
「いやいや。そういう、気遣い出来る“アシスタントさん”がやっぱり必要なんだよね、って話!」
「え……? こういうのはアシスタントって呼ばないんじゃ……」
「いわゆる“メシスタント”ってやつだよ。あ、気分悪くしないでね? 俺ら、ありがたいと思って言ってるんだよ」
“メシスタント”……。初めて聞いた。そんな言葉。ホント、初めて知ることばっかりだなぁ、ココ。
そう思っていたら、背中にあるオーブンから、ピーッと音が鳴った。
「で? なになに?」
「……蒸しパンとパウンドケーキ」
カズくんの質問に、わたしはちょっと照れながら答える。
すると、完全に手からペンを離して、カズくんが両手を上げて喜んだ。
「手作り! マジ何年ぶり! センセ! ちょっと休みません?!」
えっ! アシスタントの、しかもヨシさんよりも後輩であろうカズくんが、ユキセンセにそういうこと提案出来ちゃうの?!
ドキドキと、向かって左側に見える、ユキセンセへと視線を移す。
パソコンの画面が反射したメガネのレンズが、さらにわたしの緊張度を増した。
か、カズくん! ユキセンセ、それどころじゃないんじゃ――――。