クラッシュ・ラブ
「……でも、結局。今、この仕事に巡り合って。こうして、この手でなにかを表現して、誰かにそれを伝える権利を持てた。
……その力は、まだ当時未熟で。やっと今、あの頃の自分を昇華させるために、“あれ”を描いてる」
雪生は、空いた自分の手のひらに視線を落とし、それをゆっくりと、でも強く握った。
「『あの頃の』……」
「おそらくアキが話したんだろう? 中学時代のことから」
わたしは、少し間を置いた後に、コクリと一度頷いた。
「大人になった今、あの頃のことを思い出せば、『すごくバカみたいだ』って思ったりもする。余程、小さな世界しか見えてなかったんだ、と。
……だけど、その小さな世界が全てだったんだよなぁ……子ども(あの頃)のオレたちは」
……雪生の言ってること、なんとなくわかる。
大人(いま)の自分が過去を振り返れば、『なにをそんなことで』っていう問題ばかり。
けど、わたしたちは、初めて親の手を離れ。幼稚園から小学生になると、さらに自分ひとりの世界が広がり。そこから、中学・高校・大学や専門、就職――――と。
一段一段、確実に、世界を広げてきたんだ。
だから、昔であればあるほどに。その小さくて、だけどそれが全てという世界が必ずあった。
その世界で起きたこと――。雪生がまだ、未熟なときに受けた衝撃を。それを何年もかけて、ようやく今、乗り越えようとしてるんだと、わたしは思った。