クラッシュ・ラブ
「あの言葉」っていうのは、おそらく『通りでペースダウンしてるはずだ』とかって言ってたものだよね。
それ以外、特に話なんてしなかったもの……。
「確かにね。スピードでは、デメリットとして浮き彫りになってることだったけど、俺はなにもマイナス面だけだとは思ってないんだよ。
きみと付き合ってから、メリットだってあるはずだと思ってた」
「……メリットなんて」
そんなのどこにあるっていうんだろう。
食生活を支えるとか、家事全般くらいしか思いつかないし、それならアキさんだって誰だって。極端に言っちゃえば出来るものだし。
「自分じゃなかなかわかんないだろうけどね。おそらく雪生も、なんとなくしかわかってないんじゃないの?」
再び澤井さんはカバンに手を突っ込むと、中から束ねられた封筒を出して雪生に見せた。
「現に、ほら」
あの手紙の束はなんだろう?
わたしが不思議に思って見てると、雪生がすっと手を出してそれを受け取った。雪生の様子を見る限りでは、それがなんの手紙だか、雪生にはわかってるみたい。
「ファンレター自体は、もちろん今までに何通も貰ってるけど。でも、前回の掲載あとからは、そういう内容が目に見えて増えた」
“ファンレター”。
そのフレーズに、思わず目を丸くしてしまう。
……そうか。そうだよね。雪生のことを好きな人は、全国にたくさんいるんだ。そういう人からの手紙って、こうやって雪生(作者)の手に渡るんだなぁ。
ファンレターと言うものが、ちゃんとその相手の手に渡されている現場を目撃すると、なんだか感動する。なんとなく、そういう手紙は果たして本人に届けられているのか、なんて思っちゃったりしがちだったし。
わたしだって、もし、好きな芸能人とかに手紙を出したとして、こんなふうにきちんと受け取って貰えてたらすごくうれしい。