クラッシュ・ラブ

――――【井上秋生】。

生まれるっていう字……雪生と一緒……! ていうことは、もしかして、姉弟とかなんじゃ――!
でも、苗字……雪生の苗字が思い出せない。表札も出してないから……。


淡い期待を胸に、ドクドクとした心音で定期を落としてしまわないようにしっかりと指に力を入れる。
もし、お姉さんなら――そうだとしたら、さっき感じていたような、靄がかかった気持ちが一気に晴れ渡りそう。


「……全然、似てない。オレはあんなに社交的じゃないし」
「……本当のユキは、アキさんみたいな感じだったんじゃないの?」


澤井さんっていう人は、物事や人間を広く大きな心で見るひとだと思う。それが大人ということなのかもしれないけど、そのなかでも群を抜いて。
その澤井さんが感じたことだから、当たっているのかもしれない。

――だって、雪生が反論しないんだもん。


「まーいいけど。じゃ、俺会社に戻るから。次のネーム待ってるな」


ひらひらと手を振って、あっという間に澤井さんは出て行った。
また二人きりになって、どの話から戻せばいいのかぐちゃぐちゃだ。


えぇと……秋生さんのこと! が、一番気になるところだけど、『お姉さんなの?』って突然聞くのもどうなの? あ。でも今わたしの手の中に定期があるんだから、さりげなく今気付いた風に言えば――。


『よし』と考えがまとまって、さりげなさを演出しようとしたとき。


「……前に、美希は言ったよね。オレの漫画に出てくる脇役に『似てる』って」
「えっ?! あ、えーと……たぶん」


確かに脇役(あゆみちゃん)をみて、自分ではそう思ってたけど、はっきりと雪生に言ったことあったっけ……? ――あ。前に突然後ろから声を掛けられたとき! あのとき、わたしがどのページを見てたか、雪生は見てたんだ!


回想していると、雪生が手にある手紙を見ながら言った。

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