クラッシュ・ラブ
……あれ。なんだろう?
自分の胸が、きゅ、と掴まれるような。そんな感覚が一瞬だけ。
でも、慣れない環境と深夜の体調の気まぐれかと、大して気に留めなかった。
「つって、男三人の家に――ってのも、フツウ危険っぽいけどね」
冗談混じりにヨシさんが言って笑う。
そんな冗談を言われても、女のわたしがどう反応したらいいのかなんて、わからないんですけど。
「そういうこと言うなよ。ああ、大丈夫だよ。ミキちゃんが寝る部屋には、ちゃんと鍵ついてるから」
「あ……」
「あ。それとも、家族とか友達とか、彼氏とか。迎えに来たりする?」
「や! ……いません」
『彼氏なんて!!』と、全力で否定しそうになって、なんとか堪えた。
そんなこと、誰も思ってないし、聞きたくないだろうし。
ぼそぼそと答えたわたしの頭に、立ち上がったユキセンセが、さりげなく手を置いた。
ぽん、って、ほんとに一瞬だけ。
その手の重みに驚いて、反射的に見上げる。
「部屋、好きに使って。空き部屋だから」
――わ、あ……。人って、見た目とか、二の次なんだ。
なんて、急にそんなことを思ったのは、昨日から同じスウェットと寝癖のままの髪の毛と。ヒゲもそのまま剃ることをしない彼が、素敵に見えてしまったから。
……それだけ仕事に専念してるってことよね、うん。かろうじてTシャツは着替えてるし。
頑張る人は、どんな職業でも素敵なんだ。
「あ……ありがとうございます」
スッと立ち上がって、ぺこりと頭を下げる。そして、姿勢を戻したときに、彼が言った。
「いーえ。ケーキ、ごちそうさまでした。美味しかった」
座って見上げてたときは、ちょうど蛍光灯を反射させてたレンズ。
それが今、クリアになって、ユキセンセの目がハッキリと見えた。
太陽のようなその笑顔から、わたしは目が離すことができない。
「さー、やりますか」
ヨシさんも後に続いてソファから立ち上がると、カズくんも同時に机に戻って行った。
みんながまた仕事をし始めてもなお、わたしの心の中には、さっきのユキセンセの真剣な顔と笑顔のギャップが、大きな印象を残していた。