クラッシュ・ラブ
「そういうとこは、美希の悪いクセ」
無理矢理に視線を合わせられたときにいた雪生は、拍子抜けするくらいに“いつもどおり”の雪生だ。
「なんでも悪い方に考えるでしょ。たぶん、それ以上自分が傷つかないよう、線を引くように」
キリッとした目で諭されると、なにも反論するところがなくて、ただ黙りこんでしまう。
ジッと見つめられたまま、表情を変えることなく雪生が言う。
「でも、『変えられた』んでしょ? オレに」
抱き寄せられると、背中をポンポンと軽く叩かれる。
その手は魔法の手。
たくさんの人を魅了する絵を描き、そしてわたしを安心させる――。
「…………はい」
「じゃあ、大丈夫だよね……?」
雪生の言う「大丈夫」っていうのは、きっと『話を続けても』ってことだと思った。だから、雪の胸に額を預けてコックリと小さく頷いた。
それを確認した雪生は、背中に置いていた手でわたしの頭を撫でる。
「――産まれたときからずっと一緒だったから。アキの存在は『大きくない』って言ったらウソにはなる。
……さっきも言ったけど、今のオレは、紛れもなくアキが居たから存在するわけだから」
目を閉じて、静かに大きく息を吸う。
『大丈夫、大丈夫』と自分に言い聞かせるように、耳を塞がずに素直に雪生の話を聞き入れて。
さらっと何度目か。雪生の手がわたしの髪を滑っていく。
ちょうど毛先を離れたあとに、再び雪生が話し始める。
「だけどね……?」