クラッシュ・ラブ

ぽふっと胸のなかに引き寄せられると、触れてる箇所から振動と共に聞こえた。


「美希が来てくれた二カ月間。アキが来れなかったワケは、産休」
「……は?」


思わず間抜けな声を上げ、腕の中から顔を上げた。


「産後は大変だって聞くから、『無理しなくていい』って言ってたんだけど。あそこは“ふたり”して、昔から心配性だから」


『産休』『ふたり』『昔から』??

『ふたり』っていうのは、秋生さんの旦那さんのこと? じゃあ、知り合いなんだ。きっと、『昔から』の。

勝手なもので、“既婚者”で“子どもがいる”ってわかっただけで、こんなにも気持ちが楽になる。
すっかり力が抜けたまま、雪生の声が左から右へ流れていく――と、思いきや。


「まぁ、一応“家族”だから。余計心配してくれてんだろうけどね」
「はい??」


なになに? 待って! もう頭がついて行かない!
聞き間違えじゃなければ、今、“家族”って言ったよね? 一体誰が?


腰に緩く手を回され、雪生のテリトリー内で素っ頓狂な声を発したわたしを、ニコリと笑って見下ろす。


「ほら。漫画とかでもよくあるでしょ? “長い付き合いを経て、幼なじみと結婚”って」
「い、いや……幼なじみって」


雪生でしょ? え? もしかして、“幼なじみ”って――。


「オレの兄貴。あの二人は気付いたらそういう関係になってて。だから、今アキは、義理の姉ってことかな」


――そんなことってある?

あまりに単純だけど難題だった答えに、思わず床にへたりこむ。

それなら、実のお兄さんが雪生を心配したり、幼なじみで、今は兄嫁でもあるアキさんが様子をみて協力するのも不思議じゃない。
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