クラッシュ・ラブ

「……今後の見せ場のセリフ」


――――え。……ああ、そういうこと……。
そりゃそうだよね。現実にこんなことありえないって。

だけど、そのセンセがボソッと言った言葉に、未だ鳴りやまない動悸。
やっぱり、漫画の真似事だとしても、ときめいちゃうよ。

しかも、今日のユキセンセ、かっこいいもん。余計にドキドキもしちゃうよ。


「変かな……このセリフ」
「い、いえ……女の子は、なんだかんだうれしいんじゃないかと」
「――――そう? ほんとに?」


センセは、わたしの手を両手で包み込んで、急接近しながら聞き返す。
わたしが驚いた顔をしても、それにはどうやら気付いてないようで。手を取られたまま、辛うじて「はい」と答えると、彼はなんだかうれしそうな、安堵したような顔になった。


わたしは、ユキセンセの描いてる漫画ってどんなものか知らないけど。
でもメグの話とか、アシスタントさんを入れてる現状とかを見る限りでは、それなりに有名なんじゃないのかなと思ってた。

だから、そんなセリフのひとつやふたつ。

てっきり自信持って発信していってると思ったけど、どうやら違う……?

そもそも、ここの教会の人にもあまり積極的に関わっていかないように見受けられたし。
受け身で自信ないタイプ……? でも……。


わたしは自分の握られたままの左手を見る。


「あ、あの……手……」
「え? あ。ごめん!」


パッと大きな両手を広げ、わたしの手を解放する。
ちらりと上目でユキセンセを見てみたけど、特段なにも気にする様子は見受けられなかった。

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