クラッシュ・ラブ

背中越しの熱



疑似デートのような体験をしても、なにもかわらない日を過ごしていた。

当然なんだけど。あれはデートでもなんでもなく、仕事の付き合いだったわけだから。
それなのに、この数日間、時間があれば、なぜか思い返してしまうのは彼の存在だった。

メグにも誰にも言ってないけど……正直言うと、また、あの仕事場に行くのが待ち遠しいような気持ちだった。

その理由は、単純に、自分もなにか役立っていると感じられる場所だったからだ、と、納得させて。


そうして迎えた2度目の仕事の日。

前回よりは、気持ちも落ち着いてあのマンションに辿り着いた。
共同玄関の前で、カズくんからのメールをもう一度確認する。

【8月○日、お昼くらいからお願いしたいとのことでしたー】。


日にち、間違ってないよね。時間も具体的じゃないけど、今11時だし。お昼ご飯のこと考えたら、問題ないよね。


考えたら、わたしとユキセンセは連絡先を交換すらしてない。
だから、カズくんがこうして出動内容メールをくれる。とりあえずそれでどうにかなってるし、自分からセンセに連絡先なんて聞けないし。


ピンポーン、と無機質な音が響く。その音が消え入りそうな瞬間、スピーカーが繋がった。


『……』


そうそう。このちょっとの間のあとに、センセはいつも「はい」と言うみたいなんだよね。


『……ごほっ……はい』
「え。えぇと……向井です」
『…………けほっ』


咳と同時に大きな自動ドアが開いた。そこを潜り抜けながら考える。


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