クラッシュ・ラブ

あ……布団、落ちちゃってる。
暑がってそうということは、熱、下がってきたのかな?


そろそろと罪悪感を胸に部屋へ足を踏み入れ、ユキセンセの元へと近づく。
呼吸がさっきより心地よさそうだし、良くなってるように見受けられてほっと顔が綻ぶ。

布団を拾い上げて、ふわっと掛けなおそうとしたときに、はた、と思う。


あれ? 熱がもし下がってたなら、もしかして汗かいてる状態かな。
だったら着替えなきゃ、また風邪ひいちゃうかも……。でも、寝てるし……。


不自然に布団を持ち上げた態勢のまま、彼を見下ろしていると、その影を察してしまったのか、薄らとユキセンセの目が開き始めた。


「あ……」


いけない! 起こしちゃった! っていうか、部屋にも勝手に入ってるし! どうしよう。


おろおろとしたまま、気のきいた言い訳も出来ずに立ち尽くしていると、センセの意識が少しずつ戻ってきたようで。


「……喉が渇いた……」


開口一番のその言葉に、わたしは「はい!」と答えながら部屋を飛び出した。


リビングに小走りで戻り、キッチンで常温のミネラルウォーターをコップにいれる。その間、心臓がばくばくとしていて、今にも水を零してしまいそうなほど。

何度も深呼吸を繰り返し、幾分かマシになってから、再びセンセの待つ部屋へと戻った。


「ど、どうぞ」
「……ありがと」


か細い声でお礼を言ったセンセは、グラスを傾けて喉を動かした。
そんな何気ない光景が、なぜかわたしの心臓はまた反応して、沈めたはずのドキドキが戻ってくる。


なにをそんなに緊張してるの、わたし。
あ、でも、こんな状況――男の人と二人きりとか、看病っぽいことをするとか、ほとんど経験ないようなことになってるからかも!


ふいっと顔を逸らして、ぶつぶつと一人で理由を探しては納得させる。


「ねぇ」


< 48 / 291 >

この作品をシェア

pagetop