クラッシュ・ラブ
「……うん」
甘えられて、頼られてる気がすることが、相手が具合悪い状況だというのに嬉しく感じてしまう。
それに、なんだか今の弱ったユキセンセとの感じが、やっぱりどっかで感じたことがある感覚。
「あ、じゃあすぐ持ってきます」
その感覚はすぐ思い出せそうだけど、目の前の使命を優先してると頭が纏まらない。その辺りも自分は不器用な気がする。
トレイに一人用の小さな土鍋と器を乗せ、ベッド脇にちょうど小さなテーブルがあったので、そこに置いて鍋のふたをあけた。
まだボーっとしてるセンセを横目に、わたしは少量を器によそうと、食べやすい長さに箸を入れる。
「はい。あー…………ん……」
箸をそのまま彼の口元に持っていくわたしの行動に、センセは目を丸くした。突拍子もないこの行動で、どうやらセンセは完全に目が覚めた。
同時に、自分自身も目を丸くしながら、自分の取ってるありえない行動に気付く。
なにも考えてなかったとはいえ。
大してまだ親しくもない、しかも、あろうことか歳上の男の人を相手に、『あーん』って……!!
こんな、図々しくて恥ずかしい人、いない!!
穴があったらいますぐにでも入りたいっ。
現実には隠れるような穴も場所もなくて、全てを晒したままの自分が本当に嫌で、消えてしまいたくなる。
わたしたちの間の沈黙も、いつもよりもずっと長い。
それはわたしがそう感じているだけかもしれないけど、目下のユキセンセは固まったままなにも言わずわたしを見つめてるだけだ。
あまりにこの空気が息苦しすぎて、とうとう自分から口を開いた。