クラッシュ・ラブ
胸に違和感を感じて、リビングの真ん中で立ち止まる。
そっと手をあててみたら、その感覚がどっかに消えてしまったあとで。
風邪でも移ったかと、首を傾げていると、横からユキセンセの声がした。
「ありがとう」
久しぶりに聞いた声。一瞬だけレンズ越しの瞳と目が合うと、またセンセは横顔になった。
なんか、本当、まるでなんにもなかったかのような。
……もしかして、実は、なにもなかった?
いやいや、まさか。だって、確かに、あのとき――――。
「あと、いいから」
「え……?」
一人、やきもきとしながら迷宮入りになりそうな問題に頭を抱えていると、続けて彼の声が聞こえてくる。
顔を再度上げたユキセンセは、なにも変わらない、仕事中の顔。
「今日はもう休んで」
気遣ってくれてのことだとわかってるつもり。
ご飯は食べたし、わたしが出来ることなんか限られていて、肝心な“仕事”に対してなんにも出来やしないって。
それなのに。
なんだかその言葉が、やけに冷たく感じてしまうのはなんでなのか。
ただ、わたしが人よりも、“誰かの役に立ちたい”っていう念が強いだけだから?
――――そうだとしても、このぽっかりと穴があいたような淋しさを今、感じてるのは事実だ。