クラッシュ・ラブ
「ははっ。病みつき」
ソファの背もたれに頭を預けながら、気持ちよさそうに目を閉じてるユキセンセが笑った。
『お願い』って、これね……。
サラサラと、わたしの指の間から落ちる髪を掬いあげては乾かして、の、繰り返し。
安堵していたはずの心の隅では、もうひとつの感情があることに、自分で薄々気づく。
「……確かに。美容室とかでも、気持ちいいですもんね。友達は、よく、『シャンプーは男の人の手に限る』って言ってますよ」
「ふぅん……」
「『大きな手に包まれるように洗われるのが気持ちいい』って。それ、わかる気がしますけどね」
ちょっとだけ、美容師さんになったかのように、笑って話をしながらドライヤーをあてる。
男の人だし、もともとの髪質なのか、センセの髪はすぐに乾く。
ドライヤーを止め、手櫛でちょっと整えるようにしていると、ぱちりと彼の目が開いた。
「じゃあ今度、オレに乾かさせて」
「は……?」
「今度、ミキちゃんが髪を乾かすとき」
「え、えぇと……はぁ……」
“今度わたしが髪を乾かすとき”、って、いつ? ユキセンセの居るときに、そんなことある?
やっぱり、彼の言うことはいちいち謎が多くて、首を傾げながら曖昧に返事を返す。
困ったわたしの瞳には、逆さに見えるユキセンセの顔。
彼はその姿勢のまま、スッと手を伸ばし、わたしの頬に軽く触れた。