㈱恋人屋 ONCE!
「…泣いてるの…?」
「馬鹿、泣いてるわけないだろ。ほら、さっさと残りの仕事、やってこいよ。」
半ば菜月くんに後押しされるように、私は郁馬のいる方へと足を踏み出した。
ただ、ニ、三歩進んだ所で、私の足は再び止まった。
…郁馬がいた。
「紗姫…。」
複雑な心境が、郁馬の顔に表れていた。
「…情報屋、だったんだ…。」
「ああ。…紗姫、お前…何企んでんだ?」
郁馬はあえてそうしたのかは分からないが、見ていたはずの今の菜月くんとの会話については触れなかった。
「…。」
言うべき、なのは分かってる。でも、さっきも言ったように、郁馬には知られたくなくて…。
「…俺が言おうか?」
しかし私は首を振った。自分で言わないと…一歩を踏み出せない。
「郁馬、落ち着いて聞いて…?」
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