鎖に縛れたお姫様
―――その視線を、背中に感じたのはそんな時だった。
料理に集中してる場合なんかじゃなかったんだ。
もっと早く、気づけばよかった。
・・・・・でも、気づかなかったかも。
どんなに注意してても。
だって、その人の事なんて今まで思い出した事もなかった。
一回会っただけ。
話した事も少ししかない。
背中にじっとりと、這いずりまわるような不気味な視線。
それに気づいて肩がビクッと揺れた瞬間には、その視線の主はもうすぐ側まで来 てた。
足音もなかった。
気配もなかった。
あたしの耳に低い声でポツリと言葉を落とす。
その顔を見て、サーッと顔から血の気が引いた。
「こんばんは。久しぶりだな。‘星月美優’さん」
その顔。
その声。
気づいた時にはあたしの手から、持っていたフォークがカチャリと床にすべり落 ちた。
―――冷たい金属音が、あたしの気持ちを代弁してるかのように。