鎖に縛れたお姫様




携帯の向こうから慌ただしい物音が聞こえてからすぐに、エンジンをふかす音が 聞こえてきた。





『どこにいんだよ、今』




急かすようで優しい声。



輝が、慌ててる。




涙を拭いながらあたしは答える。


「い、inngerushaホっテ、ル」


『ブス、絶対そっ から動くなよ、すぐ行ってやるから。それまでは泣くんじゃねえ、待ってろ』




それだけ言って輝はブツリと携帯を切った。



あたしはもう、ただひたすら膝を抱えて輝を待ってるしかなかった。




ずっとそこで待ってた。



凪をひたすら。



だってもう立てない。





一度助けてって言ったら、なんだかいろんな事が一気にフラッシュバックされて しまった。


小さい頃の優雅達に話したこととか、誘拐されて暴行されたとか、
殺されかけたとか…


パパ、ママが死んだって知らされたのは病院のベッドの中で、悔しくて、悲しくてひ たすら泣いた事とか。




あと少ししか時間がない事とか。




この世界に入ってから周りに“可哀想に”とか言われ続けた言葉とか。





思い出せるだけの小さな辛さから大きな悲しさまでが全部、津波のように押し寄 せてきて、

目を瞑っても何にも見えなくて。


ああ、なんであのときアイツとダンスなんて踊っちゃったんだろう。




ちゃんと気づけば良かった。



もっと言い返せばよかった。






< 134 / 269 >

この作品をシェア

pagetop