鎖に縛れたお姫様
携帯の向こうから慌ただしい物音が聞こえてからすぐに、エンジンをふかす音が 聞こえてきた。
『どこにいんだよ、今』
急かすようで優しい声。
輝が、慌ててる。
涙を拭いながらあたしは答える。
「い、inngerushaホっテ、ル」
『ブス、絶対そっ から動くなよ、すぐ行ってやるから。それまでは泣くんじゃねえ、待ってろ』
それだけ言って輝はブツリと携帯を切った。
あたしはもう、ただひたすら膝を抱えて輝を待ってるしかなかった。
ずっとそこで待ってた。
凪をひたすら。
だってもう立てない。
一度助けてって言ったら、なんだかいろんな事が一気にフラッシュバックされて しまった。
小さい頃の優雅達に話したこととか、誘拐されて暴行されたとか、
殺されかけたとか…
パパ、ママが死んだって知らされたのは病院のベッドの中で、悔しくて、悲しくてひ たすら泣いた事とか。
あと少ししか時間がない事とか。
この世界に入ってから周りに“可哀想に”とか言われ続けた言葉とか。
思い出せるだけの小さな辛さから大きな悲しさまでが全部、津波のように押し寄 せてきて、
目を瞑っても何にも見えなくて。
ああ、なんであのときアイツとダンスなんて踊っちゃったんだろう。
ちゃんと気づけば良かった。
もっと言い返せばよかった。