医師とわたしの恋物語
倒れてすぐに、わたしの意識は戻った。



私は診察室の白いベッドに運ばれて寝ていた。



目を開くと


心配そうに私を見守ってくれる医師が居た。



「貧血だったみたいですね。意識が戻って良かったです……」




医師は安心しながら、ベッドのふちに座って聴診器を耳に付ける。



寝ている私の右腕に血圧計を巻いて


手慣れた手つきで手動ポンプで空気を送り込み、脈を圧迫した。



医師は聴診器を私の肘の内側に当てて、脈拍を聞き始めた。



一昔前の血圧の測り方みたいだけど、機械より確実なんだろうなと思った。




「血圧は正常ですね。」



血圧計を外しながら、マスクをしたままの医師は、ほっとした様子で私を見た。




診療時間がとっくに過ぎているというのに診察してもらったうえ

貧血で倒れたりして。



私は、医師に超迷惑を掛けてしまった事に気が付いた。



ほっとするばかりで医師は穏やかな表情のまま

耳に当ててた聴診器を首にかけて、胸ポケットにしまってた。




「先生私、すぐに帰りーー」



慌てて上半身を起こしたらまたクラッとしてしまい


とっさに


医師の腕に支えられた。




頭がクラクラしていて自分ではどうしようもない私を


医師は、私の顔を抱くようにして支えてくれたため


医者の胸に頬が密着した。



私は地震のような貧血の揺れで、ベッドから落ちてしまうんじゃないかと錯覚して


しがみつくように、医師の背中に腕を回した。



耳を済ませば心臓の音が聞こえるほど近くて

白衣が私のほほに触れていた。



アイロンがかかった清潔な白衣は


糊付けされて、パリッとしていて。



白衣の中に着ている先生のワイシャツからは

柔軟剤のいい匂いがした。




不安だらけだった、 心が落ち着いた。



同時に、貧血の揺れも緩和された。



ベッドの上で医師と抱き合ってる状態だと

私が気付くのは、ずっと後の事だった。




「……大丈夫ですか?」



耳元で聞こえてきた医師の声。



優しくて頼りある医師の腕の中



私は目を閉じたまま、うなずいた。



揺れが落ち着いたのを見計らって


私の上半身をそっと


ベッドの上に横にしてくれた。




そして、医師は鉄分の薬とペットボトルの水を持ってきてくれて


私は、上半身を医師に支えられながら薬を飲んだ。





一連の動作を終えた医師は


ベッド脇の丸椅子に腰を降ろす。



私はグラグラ回る天井を見上げて、車酔いのような気持ち悪さに額に腕をのせながら


医師の横顔に視線を向けた。



「ごめんなさい。」



謝ると


医師は首を横に振った。




「構いません。それよりも、不安だったでしょう。」





今までの辛さを気遣う言葉に


私は涙が出そうになって、医師に背を向けた。




医師は、眠って休むようにと私に告げ


そっと立ち上がると、医療器具の片付けを始めた。


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