医師とわたしの恋物語
もう診察してくれないだろうな……。そう思ってると
会計を済ませてこちらを向いた妊婦が
ガラス戸越しの私に気付いて微笑んだ。
幸せそう……
だけど、私は笑い返す余裕は無かった。
視線が怖い。
こんな若くて、しかも制服で産婦人科に来て一体、何て思われているか。
その笑顔の裏が、手に取るように判る。
だって、彼女は祝福され、私は祝福されないから。
放心状態だった私が逃げようと思ったそのとき
まるでスイカが入ったようにお腹を丸くした妊婦が
靴を履くのに苦戦してた姿が見えた。
だから私は、手動の扉を開いてあげた。
妊婦はマタニティドレスを着た20代半ばの落ち着いた女性で
私にお礼を告げる優しい笑顔からは
幸せがいっぱいにじみ出ていた。
悪い事をしたら地獄に堕ちるって言うけど
天国と地獄は、確かにここに存在していた。
扉を開けたまま私は呆然としながら
道を曲がる妊婦の後ろ姿を見送った。
「扉を開けて下さって、ありがとうございます。」
今度は優しい男性の声が聞こえて
私は我に返った。
室内の玄関に、白衣とマスクを着けた若い医師が立って居た。
マスクだから表情は分からないけど
目元が優しいから、ほほ笑んでくれているのが分かる。
顔色を伺ってばかりの私は
ここでも、笑い返す余裕は無かった。
ずっと、地獄のような暗がりをもがいている。
見えない未来に押し潰されそうで、辛うじて生きているだけの状態だ。
だから妊婦や医師は天国で笑っているようで
私にはまるで、別世界に見えていた。
医師に話を切り出せず
どうしたら良いか分からなくて、逃げてしまいたくなった。
緊張と不安。
そして恐れが入り交じる表情をした私に
「診察ですね?まだ大丈夫ですので、どうぞ。 」
医師が、穏やかに声を掛けてくれた。
私の緊急事態に気付いてくれた医師は
慣れた様子で、私の不安を解いて
安心感を抱かせてくれた。
私に手を差し伸べてくれたのはこの医師だけだと感じた。
白黒だった世界に少しだけ、光が射したように感じた。
会計を済ませてこちらを向いた妊婦が
ガラス戸越しの私に気付いて微笑んだ。
幸せそう……
だけど、私は笑い返す余裕は無かった。
視線が怖い。
こんな若くて、しかも制服で産婦人科に来て一体、何て思われているか。
その笑顔の裏が、手に取るように判る。
だって、彼女は祝福され、私は祝福されないから。
放心状態だった私が逃げようと思ったそのとき
まるでスイカが入ったようにお腹を丸くした妊婦が
靴を履くのに苦戦してた姿が見えた。
だから私は、手動の扉を開いてあげた。
妊婦はマタニティドレスを着た20代半ばの落ち着いた女性で
私にお礼を告げる優しい笑顔からは
幸せがいっぱいにじみ出ていた。
悪い事をしたら地獄に堕ちるって言うけど
天国と地獄は、確かにここに存在していた。
扉を開けたまま私は呆然としながら
道を曲がる妊婦の後ろ姿を見送った。
「扉を開けて下さって、ありがとうございます。」
今度は優しい男性の声が聞こえて
私は我に返った。
室内の玄関に、白衣とマスクを着けた若い医師が立って居た。
マスクだから表情は分からないけど
目元が優しいから、ほほ笑んでくれているのが分かる。
顔色を伺ってばかりの私は
ここでも、笑い返す余裕は無かった。
ずっと、地獄のような暗がりをもがいている。
見えない未来に押し潰されそうで、辛うじて生きているだけの状態だ。
だから妊婦や医師は天国で笑っているようで
私にはまるで、別世界に見えていた。
医師に話を切り出せず
どうしたら良いか分からなくて、逃げてしまいたくなった。
緊張と不安。
そして恐れが入り交じる表情をした私に
「診察ですね?まだ大丈夫ですので、どうぞ。 」
医師が、穏やかに声を掛けてくれた。
私の緊急事態に気付いてくれた医師は
慣れた様子で、私の不安を解いて
安心感を抱かせてくれた。
私に手を差し伸べてくれたのはこの医師だけだと感じた。
白黒だった世界に少しだけ、光が射したように感じた。