時の流れで、空気になる【短編】
その日もそう。
これから映画が始まるというのに、
「私、もう、いい!」
と言ってシートをはね上げ、出て行ってしまった。
原因は分かってる。
高2の時、初めて出来た彼女とここで初デートしたって話を俺がしたから。
サツキにしたら、無神経ってことになるらしい。
だからって、これから始まる映画を放り出すほどのことなのか、正直言って、ワケわかんねえ。
これは、ノスタルジアだよ。
たまには、浸りたかったんだよ。
サツキには、分からないかな?
一応、あとを追ったけれど、小さな映画館を飛び出したサツキは、紺のスカートを翻し、白いふくらはぎを見せつけるようにして、駅の方へと向かっていく。
早い。
その後ろ姿を10メートルほど追いかけたところで、俺は段差につまづき、ガクリと膝を折った。
イッテー…としゃがみ込んでいると、きゃっきゃと黄色い声がして、振り向くと、俺の不様な姿を、女子高生2人組が見て笑っていた。
うるせえ、お前ら、大根足のくせにパンツ見えそうなスカートはきやがって。
電車の中で絶対、近くに寄ってくんなよ。
まだクスクス笑っている女子高生を横目にまた歩き出した。