時の流れで、空気になる【短編】
今年で結婚10年目だという、有村先輩は、680円のカツ丼を食いながら、溜め息を吐いた。
「満員電車に揺られて、ようやく帰ったら、夕飯は、もやしと豆腐の炒め物の節約メニュー。
風呂はぬるくなってて、でも、ガス代もったいないから追い焚き禁止。
車は燃費重視、奥さん好みのファミリー・カー。
極め付けがよ、小遣い2万円だぜ?
それもこれも、マイホームのローンの為。あと25年もこの生活続くんだよ?
そのくせ、あいつは新しく買った服、去年、買ったのよ、とか言い張ってるし。
俺の靴下は穴開いたら、つま先縫ってやがる。
それでも笑って生きて行かなきゃなんねえのかよ?
なんの為に結婚したんだよ?
俺はあいつの下僕か?
会社にいるほうがまだマシだわ…」
同じ課の有村さんは、事あるごとに家庭の愚痴を言う。
「しっかり者なんすね、奥さん」
俺は、いつも通り笑いながら返す。
2万の小遣いは、さすがにひでえな、と心の中で有村さんの奥さんの横暴さに呆れてしまう。
だけどーーー女は、家庭を持ったら、豹変するのかもしれない。