時の流れで、空気になる【短編】
眩いばかりのシャンデリアの下、俺はここに来たことを少し後悔した。


宝飾品を際立たせる為の黒を基調としたインテリア。
ふかふかとした緋色の絨毯。


行ったことないけど、まるで、高級クラブみたいだ、と思う。


そこにいる店員は、ナンバー3ぐらいのホステスだ。



「どんなものをお探しですか?」


隙のない完璧なメイク。
いつも薄化粧のサツキとは大違いだ。


「ああ…以前ここで指輪買ったんですが、失くしてしまって。同じものがないかと思って…」


俺がふっと、店員に視線を投げた時。彼女は大きな目を見開き、瞬きを繰り返したあと、言葉を発した。



「…栗原先輩ですよね?」


「えっ?」


「竹下です、私、竹下ノドカです!」


長い睫毛をパチパチさせて、ぴょんぴょん飛び跳ねた。


「ああっ!」


俺は人差し指で、指差した。
確かに、厚化粧を取ったら、竹下ノドカになる。


高2の時、俺は一学年下の竹下と付き合っていた。


しかし、淡い恋は3ヶ月ほどで消えてしまった。

竹下の両親が離婚、竹下は、母親について、東京に引越してしまったから。

キスどころか、手をつなぐこともなかった。






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