正義のヒーロー
それから十分くらい歩いた。
いつになったら手を放してくれるのだろう、と跳ねた髪の毛に触る。
風にも乱らされた髪の毛を、直すことはもうあきらめた。
突然、腕から手が離れていく。
同時に目の前で黒い影が動いた。
「……えっ」
バットが振られていく感覚が甦った。
世界のすべてがスローモーションに変わる。
視界の端で夜霧が動いたのが見えた。
少し遅れながら、釣られて視線が後を追う。
夜霧は迷う事無く道路に突っ込んでいく。
行き交う車を軽がるとかわし…
いや、まるで車が夜霧を避けて通っているようだ。
だが、一台の車の前に行き着いた時、夜霧と車の距離は一メートルも離れていなかった。
ピピーッとクラクションが鳴る音と、キキーッとブレーキがかかる音が、けたたましく響いた。
俺の意識はハイスピードに戻る。
目の前の情景に唖然とした。