正義のヒーロー
夜霧は向かい側の歩道の上に転がり倒れていた。
車は変な向きに停車している。
幸い、急ブレーキによる車同士の接触事故はなかったようだ。

クラクションの音が飛び交い、夜霧を引きかけた車から、一人の男が出てきた。
その男は夜霧に何かを言い、夜霧が上半身を起こして何か言った。
その時初めて気付いたが、夜霧の腕の中に、黒い物体が動いたように見えた。
黒い服なため、何がいるのかが分かりにくい。


横断歩道を渡って、俺も向かい側へと移った。
野次馬を掻き分けて、夜霧と男に近づく。


「急に飛び出てきて危ねぇだろ!」
「うるせぇなー。テメェこそ、前見て運転しやがれ」
「―――んだとぉ!」

かなり険悪なムードが漂う。

「この猫にゃんを引きそうになったのはテメェだろ」
「はぁ?ネコだとぉ!?」

夜霧の腕の中から、ニャーと可愛らしい声が聞こえた。
さっきの黒い物体は、ネコだということに気付く。

つまりアレだ。
夜霧はネコを助けるために、道路へ飛び出したのか。

「おい!早く車を出せ!」
男の後ろに止まっていた車から、野次が飛ぶ。
その内次々と飛んでくるので、男はバツが悪そうに車に乗り込んだ。
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