正義のヒーロー
「おーい、そこの兄ちゃん!」
「………」
辺りを確認してみたが、人は誰もいなかったから、たぶん俺なのだろう。
「…俺?」
「そう、兄ちゃん。悪いが代打にでてくれねぇか?用事で帰っちまって、代わりが足りねぇんだ」
ちょっと肥えたおっさんが土手の下から大声を張り上げて愛想良く話かけてきた。
「……あ、すんません。俺、野球とかさっぱりで…」
運動はさほど苦手ではなかったが、草野球の球を打てるとは思えない。
ただでさえで熱いのにわざわざスポーツする気なんて起こらないともいう。
「そうか、残ね…「俺が打ちますよ」
「え?」
右肩にポンと手を置かれ、初めて隣に人が立っていることに気が付いた。
さっき見渡した時はもちろん誰もいなかった。
それ以前に隣に立たれるまで人がいることすら気付けなかった。
ジャリ道なのに、足音ひとつ聞こえなかったのだ。