正義のヒーロー
「悪いな、俺が打たせてもらうよ」
ニヤッといやらしく笑う上半身黒ずくめジーパン下駄の野郎に、初対面から好感がもてない。
肩に置かれた手がいつのまにか肘になっていて、もたれかかってくるようになった。
顔が近いし暑苦しいし、なにより重い。
「いえ。もともと俺断ってますし、お好きにどうぞ」
「あ、そう?こんなにオイシイ場面で回ってきてるのに」
急にいやらい顔からきょとんと表情が変わった。
肩の肘を払い除けて離れる。
「オイシイ?」
「九回裏、7‐4のワンアウト満塁。逆転のランナーが出てる上にワンアウト。例え三振になろうがダブルプレイをされない限り代打が責められることは少ない。それに続いて守備をする必要がない」
グランドへと続く階段を一歩一歩軽やかに降りていく男の背中をじっと見つめる。
「同点で延長になると、守備しますよ?」
すっかり帰るタイミングを逃したと思う反面、いつもと違う展開に若干期待していた。
しかし出てきた言葉はちょっと皮肉めいた言い方になってしまった。