あなたには聞こえますか…………
3月2日23:50


救急要請のサイレンが鳴り響き、

着いた現場は、個人宅の二階。



妹が発見したらしく、その姉が室内では

ベッドに横になり、身動きひとつなくな

っていたのだ。




親御さんや妹が泣き叫ぶ中、雪は脈を取

り、心臓マッサージを繰り返していた。



そのままストレッチャーに乗せ、救急車内

に運び入れ、病院に急ぐ光景が道行く人

の目には止まる。



運んでいる間、妹からの(助けてよ……)

という声が雪の脳裏には刻まれていた。



車内でも、心臓マッサージを繰り返して

いた雪は必死の願いを込めていたのだ。



(動いてくれ! 動いてくれよ!)



雪が心で叫びながら、処置にあたってい

たが、脈が再び動き出す事はなかった。






病院に引き渡したあとは、雪たちの出来

る限りの事をし、悲しい表情を浮かべて

帰って行くしかないのだ。




しばらくして病院に電話をし先程の患者

の容態を確認するのが、最後の仕事とな

る。



「お疲れさまです。

先程伺った救急隊の亀城です。患者さ

んの容態を教えて頂けますか。


そうですか……了解です。お疲れ様です」



「どうだった? さっきの患者」



隊長が聞いてきていた。



「お亡くなりになりました」



「そうか……」




この時がいつも、胸が苦しくなる瞬間だ

った。



一人でも多くの患者を救いたい。

しかしそれが懸命の努力があっても、

叶わないことは多い。



雪は毎日、その狭間に立ちながら、

自分自身の力のなさを痛感し、

そして日々の向上心に変えれるように

自分を奮い立たせていた。







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