あなたには聞こえますか…………
「今さら貴女が何故、わたしの前に?

花梨がどれ程、当時大変な想いをしたか

知っていますか?」



冷たくそう言い放つと、花梨の母親は、

悪びれる素振りもなく、言葉を返してき

た。



「私とは血の繋がりはあったけど、縁の

切れた仲ですから……」




もし、これが男性の言葉なら、雪は殴り

かかっていただろう。

拳を握りしめ、行き場の無い怒りに震え

ていた。



「で、今日は何しに?」



「こんな時代ですから。人口も少ないで

すし、お互いの協力が大事な時でしょ。

近くを通りかかったので、今後のご挨拶

をと思いまして」



返す言葉もなくただ、雪は黙り考えてい

た。

(花梨の事について聞かないんだな。

体調がどうとか、今の様子はどうとか。

全くいない者として、この人の中では

割りきっているのか……)




「そうですか。じゃあ私は仕事に戻りま

すので」



そう話す雪は、振り向かず立ち去ってい

た。


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