あなたには聞こえますか…………
大家にとっては、花梨は我が娘みたいな

そういう感覚になって行っていたのだ。


一度花梨の口から母親の話を聞いたこと

があった。



「ねぇ、大家さん。もしもね、うちを訪

ねて来る人がいても、いないって言って

ほしいんだー」



「ん? それは構わないけど、誰か来る

のかな?」



「わかんないけど。もしもの場合ね!」



「どんな人が来るのか教えてもらわない

と対応できないわよー?」



「うちね、片親だったんだ。母親が家か

ら出ていってお金持ちな人と再婚しちゃ

ってね。そんな裏切り者とは二度と会い

たくないし、うちもあの人からは他人扱

いされてるから、来ないとは思うんだけ

ど。もしもの場合は、大家さんお願い!

またなに言われるかわからないから……」



「そっか……任しときなさい! そんな人

来たら追い返してあげるから!」





あのときの花梨の憎しみのこもった目を

一瞬見たとき、大家はいつも明るい花梨

の辛い過去を見た気がしていた。

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