あなたには聞こえますか…………
もしも、もしもあのとき花梨さんが

このマンションに入るときに、断ってい

たら……花梨さんは死なずに今もいたのか

な。



そのようなことも大家は、考えていた。



いろいろな過去を思い出しながら、

大家は花梨のいた部屋の玄関に手を合わ

し、冥福を祈っていた。




そして、雪の事が心配になっていた。



「亀城くん、マンションに行くようなこ

と行ってたけど……花梨さんがいるとか言

って……早く立ち直ってほしい。また明る

い亀城くんに戻ってほしいわ…… 」



二人ともが親を亡くしていたため、親代

わりにいろいろと世話をしてきたからこ

その思いやりだった。



そして、大家は花梨の部屋の前から静か

に離れて行った。


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