ベランダ越しの片想い
ふたりで並んで歩いてきた道はたくさんあるけど、嬉しいなぁと。
たったこれだけでそう思うようになったことに、少しこそばゆい感覚を覚える。
足並みを揃えてくれているところや、今みたいに混みあう電車で人から守ってくれるところ。
それから無愛想で距離を置かれているわたしにも気を遣わず構ってくれるところが、わたしの心を動かして止まない。
ガタンガタン、という振動に合わせて周りもみんな揺れる中、彼の顔を見られない。
顎を引いてアキの水色のネクタイを見つめる。
いつからだったろう。
そばに彼がいることを当然だと思っていたのは。
いつからだったろう。
わたしが特別大事にされているわけではないことに苦しさを覚えたのは。
みんな、彼を特別に思い始めてから。
────あの日、入学式の日。
わたしは人が恋におちる瞬間を初めて見た。