ベランダ越しの片想い
あの頃は今よりずっとアキと仲がよかったから、初日だし一緒に帰ろうということになって。
だけどわたしは運悪く、学級委員が決まるまでの代理──つまり雑用係になったせいで遅くなってしまっていた。
急いで教室に戻って来ると、そこにはもうアキ以外は誰もいなくて。
待たせてごめん。
そう口にしようとして、彼の違いに気づいてしまった。
決意の握り拳。赤い頬。熱を孕んだ瞳。
中庭にあるなにかを眉を下げて見つめていて、わたしには気づいていない。
ちらりと視線を辿ると、ひとりの女の子が桜の木の下で泣いていた。
存在に気づけば聴こえる泣き声は、痛々しいの一言に尽きる。
……あの時は誰か知らなかったけど、今ならわかる。
あれは、清水さんだった。
そして、これだけはすぐにわかったの。
わたしの幼馴染は恋をしたんだって。
彼の変化に気づいてしまった。
それだけなら、よかったのに。
ずっと一緒にいたのに。今更だってわかってたのに。
それなのに、わたしは清水さんに恋をした君に────恋をした。