いつか、また
どれぐらいそうしていたのだろう、追加の注文を聞きに来た店員がふとなにかに気付いたかのように口を開いた。
「…………そう言えば、昨年の今頃ですかね・・・貴方方と同じ学校の生徒さんが、劇団の試験に受かったと嬉々として告げに来て下さったんです」
その言葉に修弥と希緒は店員を凝視した。
「小柄で、可愛らしい方でしたよ。……年甲斐もなく、油断したら惚れてしまいそうでした」
「……修弥、それって・・・」
「プリンセス、美香先輩だ」
店員は不思議そうに首を傾げ、追加の注文がないことを確認すると厨房へ戻る。
「美香さんって、昨日センパイ達が言ってた・・・?」
「……これも、何かの縁なのかな」
修弥達は言うと何処となく虚空を見上げた。
再び会話の途切れた花奈は店員が去った方向を見詰め、溜め息を吐く。すると、突然厨房の扉が開き店員が姿を見せた。
「これは皆さんへのサービスです。・・是非召し上がって下さい」
店員は此方に近付き春の木漏れ日のような笑顔で言うと、再び厨房へと消える。
「……パンの耳で作ったかりんとう、か・・・」
希緒は呟くとひとつ摘まんで口に含む。サクサクという軽やかな音と、バターの芳ばしい香りが3人の周りを包んだ。