プリンセス☆ロード
その歓声を一身に受けて、私は戸惑ってしまった。
「姫、挨拶を」
王様にそう促され、マイクを手渡される。
皆が、私の言葉を待っている。
そう思うと、言葉が出てこない。
本当に、いいの?
元の世界に戻るまで、頼まれたからここにいる私。
奇跡だとか、救世主だとか、みんなは言うけれど、そんな力私にはない。
「姫?」
言葉を失った私に、王様が心配そうに尋ねる。
その間にも、国民が私を呼ぶ「姫―!」という声が響く。
こんなにも、こんなにも、歓迎してくれている皆に、私は何ができるんだろう。
やれと言われたから仕方なくたっている私に、みんなはそんなことお構いなしに歓迎してくれる。
そんな気持ちで、この仕事を受けてはいけなかったんだ。
「姫様―!」
「なにかしゃべって―!」
皆の期待に、応えたいと思ってしまったの。
この国の優しさに、応えたいと思ってしまったの。
「皆さん、初めまして。私の名前は、紗南です。17歳になりました」
それは、レンと一生懸命練習した堅苦しい挨拶の言葉ではなかった。
口をついて出た、私自身の言葉。
私が、伝えたいと思った言葉。
「私は、みなさんが思っているような人間ではありません。夢見がちで、自分で何も努力してこなかった、逃げてばかりでした」
剣道から逃げ、友だちから逃げ、そして、この現実からも逃げようとしていた。
なるようになるさ、と適当に過ごしていればどうにかなるかもとこの姫という任務だって思ってた。
きっと、姫になる資格なんて、私にはないだろう。