そのとき僕は
太くて古い桜の幹に体をだらりと預けて、頭を垂れて。サイズオーバーしてると思われるブカブカのジーンズを穿いた両足はつつましいとはどう頑張っても言えない自由さで、放り出されている。白いスニーカー。
上はこれまた大きそうな灰色のTシャツ。その上から自分を包んでいたらしい薄いニットのポンチョは、その人の体から離れて盛り上がった桜の根にひっかかって揺れている。
あれでは寒いだろう。
僕はしばらく考えて、そっちの方へと慎重に歩き出した。
その間にもハラハラと桜の花びらが降り続く。これだけ強い風の日に、よくこの人こんな薄着で寝てられるな。しかも外で。それに、まだ地面も木の表面も冷たいだろうに。
強い乱視なのに普段は眼鏡をかけない僕が裸眼でハッキリ見えるくらいまで近づいて、足を止めた。
「お」
つい声まで漏れた。驚いたために見開いた目でじっと見る。
・・・この人、女の人だ。
髪も短くて、服装には気を配ってません!と主張しているその格好のせいで(もしくはその恥じらいのない態度のせいで)、ちょっと華奢な男の子だと思っていた。
だけど今はしっかりみえるその顔は白く小さく、閉じられた瞼にはたくさんの長い睫毛。白い頬のところにはいくつかのそばかすが見えている。天然のピンク色をした唇はゆるく閉じられていた。
倒れてるんじゃ・・・ないよな。寝てるんだよね、これ。