そのとき僕は
3、錦の世界は終わり
学校の時間割の都合で一日だけ昼下がりには行けなかったけれど、僕は結局ほぼ毎日その山すその空き地まで通っていた。
何だか落ち着かなくて、別の用事をいれようとも思えず悶々と午前中をやり過ごすと、フラフラとあそこへ向かってしまうのだ。
この足が。
いつだって僕の思い通りに動いてきたはずの、この二本の足が!
勝手に歩き出してしまう足を恨めしく見下ろして、おいおいって言ってみるけど速度は落ちないままで、僕は今日もあの桜の木を目指していく。
相変わらず風は強く、あの人が立つ老桜の下は一面がピンク色の絨毯になっている。毎日風に吹かれて、さすがに葉桜になってきだしたその日、またやってきた僕を見て、彼女がクスリと笑った。
「毎日ここに来るなんて、あなたってもしかして、凄い暇人?」
「・・・」
来て早々それですか。でもそう思われても仕方ないほどに、何故だか僕はここに来ている。そしてバイトまでの数時間と、何も予定がなければ夕日が沈むまではここで突っ立っているのだから、まあ世間一般のカテゴリーから見れば十分な暇人だよな。
ふん、と口を尖らせて、僕も挨拶抜きで彼女に言った。
「失礼な。僕は学生だよ。大学の時間割で、午前中に講義を入れまくったから午後が空いてるの。そういう君こそ、一体どういう身分でフラフラしていられるんだ?」
よく考えたら、彼女に身の上話的な話題を振るのはこれが初めてだった。
彼女も、そう。僕に今までどこの誰などと聞いたことはなかった。