そのとき僕は
僕達はいつでも、何となくこの木の下でぼんやりと時間を過ごすのだ。彼女に頼まれておみくじを買いに行く。前と同じ方法でまず彼女に選ばせる。だけど毎日気に入らない結果らしく、彼女はそれをすぐ目の前の桜の枝にくくりつけていた。
特に会話もせずに、ただ何となく一緒にいた。別にいつかのナンパ男からこの人を守ろうとか、そんな考えはなかったのだ。
だけどその空間やその時の空気の中に、僕はすっぽりと嵌ってしまっていて、抜け出そうとは考えない、そんな状態だった。
説明するのは難しい。理性があるなら行動のわけをいえるはず、ちょっと前の僕なら当然のようにそんなことを言ったと思うけれど、今の僕にそんな理屈は形無しなのだった。
彼女は僕の問いかけにちらりと視線を寄越す。それから口元をきゅっと上げて、笑うついでに言った。
「ふふふ、内緒よー」
力が抜ける返事だ。僕はがっくりと肩を落とすついでに、もう一度だけ言ってみることにした。答えを貰えなかった腹いせも込めて。
「やっぱり幽霊なんじゃ・・・」
するとパッと彼女が体ごとこっちを向いた。
え?と思う暇もなく、引っ張られた僕の右手。ぐいっと引っつかんで、彼女は自分の両手で僕の右手を包む。ふんわりと温かさが僕の手に伝わり、その柔らかい感触にハッとした。
目を見開いて彼女の行動に驚いていると、両手で僕の手を握ったまま、彼女が聞いた。
「幽霊って、体温あるの?」
「し」
「し?」