そのとき僕は
僕はその夜、こっそりと自宅を抜け出した。
別にこっそりとである必要はなかったんだけれど、夜の10時過ぎ、アルバイトがあるわけでもない夜はいつでも自室でごろごろしている息子が出かけてくるなどと言ったならば、うちの両親も二つ離れた弟も目を丸くするはずだ。
そして、質問攻撃にあう、はず。
どこに行くの?彼女できたの?飲み会あったっけ?そんな一通りの質問が矢のように飛んできて、それらをパスすると、きっと次にくるのはこれだ。
『あんた、何か変なことしてんじゃないでしょうね!?』
親に信用されない長男なんて、ほーんと厄介な身分だ。
そんな面倒くさいことはごめんだ、そういうわけで、僕は何と自分の窓から脱出したのだ。昔からよく、幼馴染と悪い悪戯をする時なんかに使ったルートでもって、下におりようというわけ。
隣の家のベランダから屋根を借りるだけなのでそんなに時間もかからず、僕は地面に無事に降り立つ。・・・昔はもっと身軽だったよな、何か今は、体が重たかった。
そんな事実にちょっと凹みながら、僕は一人であの場所へ向かう。
ここ最近、毎日のように通った、あの遊歩道だ。そこからちょっといったところの、山すその空き地へ。
どうしても、確かめたかったから。
あの遊歩道は、桜が満開のうちは夜にはライトアップもされる。そして仕事帰りの人達の夜桜見物にもってこいの道となるのだった。
キラキラと桜の薄ピンクを光らせるライトで、花見客のテンションは確実にアップする。この時期のあの遊歩道は朝から晩まで賑やかだった。