私とねこ [短
「えーと…」

目の前に立っているのは叔母さんではなかった。

全身黒ずくめの怪しい男。

わたしが踵を返し、家の中に戻ろうとしたその時。

背中に痺れるような激痛が走った。

声にならない痛み。

視界がぼやける。

だが、私は大事な者の名前を思い出す。

"ハク"

倒れそうになるのを必死に堪え、歩を進める。

グサっ

今度は生々しい音と共に再度激痛。

包丁かナイフなのか知らないが、鋭利なものが抜かれ、ぼたぼたっと血の落ちる音がする。

それでも歩く。

私はハクを…ハクを助けなければいけない。

犯人の目的が何かなんて知らない。

それでも、もし、少しでもハクに危険があるなら…

私は守らなきゃいけない。

ある夜にそう誓ったんだから。

ハクが階段を降りてくる音がする。

肉球と階段のフローリングが触れ合ってトントンと音がする。

いつもは無音だが、トントン音がする時はハクが急いでいる証拠。

心の中で、来ないでと念じた。

しかし通じなかった。

ハクは私の足元でみゃーみゃー鳴いている。

もしかしたら犯人がバレるのを怖がって、鳴いているなんの罪もないハクをさすかもしれない。

私はキュッとハクを抱きすくめた。

ハクは抵抗する。ふみゃーふみゃー!と、苦しそうな鳴き声を発する。けれど離さない。

犯人が私の腕を刺す。

痛い。痛い。痛い。

朦朧とする意識の中、ハクにこう告げた。


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