初恋ピエロット
淡い恋物語
――――春が来た。

ここから見える景色は、変わらない。
あの櫻の木も、変わらない。


でも。
あの頃は隣にいた君はもういない。
変わってしまったあたしたちの関係。

ねえ。
あの時、あたしは何を間違ったの?
何を間違ってしまったの?





もう一度。
あの時のように、笑い合えるなら、命さえもくれてやるのに。






―――――会いたいよ。野田。








1月24日
――――雨か。
雨の日は嫌いだ。特にこんなふうに静かに降る雨は。いやでもあの頃を思い出してしまう。早く忘れなければ、と思っているのに、未だ記憶の片隅に引っかかり続ける問題を持ったものはまだ頭の中を半分以上は占領している。

もう、忘れさせてくれよ。

小鳥遊。









一月二十五日
メロンパンが売り切れていた。
あの人といた頃から毎日買っていたメロンパンが。いろんな店を歩いてみてもどこにもなく、胸の痛みを感じながらあの人とよくいったスーパーに行った。メロンパンを買い、帰ろうと自動ドアを潜った。メロンパンをほおばりながら、帰り道を歩いていたとき、あの人を見つけてしまった。

その人は、あの時と同じで雨に打たれながらバスを待っていた。









「野田。一緒に帰っていい?」

真っ暗の廊下を歩いていると、いきなり声をかけられた。振り返るとそこにはクラスメイトである小鳥遊慧愛が立っていた。

「別にいいけど。ハローデイ寄るぞ」

後ろを振り返ってそう言うと、小鳥遊は安心したように笑った。一人で帰るのが怖かったのだろうか。それとも、暗闇が怖かったのか。あるいは、どちらもか。







「ね、ねえっ!何してんの!!」

スーパーに入るときの三原則。一つ目。試食は最低でも三回ずつは食べるべし。

「何って・・・試食」

小鳥遊は顔を真っ赤にしながら周りをキョロキョロしてる。

「いやいやいや。試食じゃなくてもはやご飯じゃん!!!」

俺は自分の両手に抱えられた試食の皿たちやら、カップやらを見る。となりを通ったオバさんがぎょっとした様子で俺を見ていた。

「小鳥遊も食えばいいじゃん。このソーセージうめぇぞ。和牛だ、和牛」

そう言って、小鳥遊の口にソーセージが刺さった爪楊枝を押し込む。その瞬間、小鳥遊の目が輝いた。

「・・・・・・・・・・・」

ぱく。

小鳥遊は自分でソーセージをもらって食べる。

ぱく。ぱく。

「・・・・・・・」

すたすたすた。

そう呟くと、小鳥遊は一人で向こうへ行ってしまった。取り残された俺と試食の係員の美しい女神様は二人で顔を見合わせ、苦笑いをする。


「可愛いですね、お嬢さん」

女神様が笑いをこらえながら、俺に言う。

「ははははは・・・いや、ホントもう不器用な奴で、すんません」
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