初恋ピエロット
女神さまと俺は向こうの壁から少しだけ顔を出してこちらを伺っている小鳥遊を見て、笑う。
「あいつ、多分おいしかったけど、素直に言うのが恥ずかしかっただけなんすよ」
俺は一応フォローを入れておく。小鳥遊は真っ赤な顔をしてこっちを見ていた。まったく、美味しいならそういえばいいのに。
「ええ。大丈夫です。それより、彼女さんにこれあげてください。」
そう言って渡されたのは、メロンパン。
フランソアの発酵バターのメロンパン。
「彼女さんに、また来てねと伝えておいてくださいね?」
女神様は最高の美貌を最高の笑顔で最大限に生かした。俺の目はどうしても女神さまから離れない。
「彼女、じゃないっすよ」
俺はつぶやく。
そのときには、女神様はもう従業員用の部屋に入っていた。小鳥遊が歩いてくるのを見て、俺はあわてて従業員室から目を逸した。
「それ、ちょうだい」
小鳥遊は俺の手に握り締められている、メロンパンを指さした。
「ほらよ。」
「ねえ、、野田はさ。好きな人いないの?」
バス停でバスを待つ。小鳥遊はさっきもらった女神様からのメロンパンをおいしそうに頬張っている。
「俺?いないけど。」
「うっそだー。亀さん好きじゃない!?」
「別に好きじゃないし」
俺はそう言うと、目を細めた。
「あたしは、好きな人いるけどなぁ」
小鳥遊はオリオン座を見ながら言う。目が合うと、小鳥遊は元々はあまり可愛くないくせに今はどんなモデルにも負けないんじゃないかってくらい可愛かった。そんな眩しい笑顔に、俺は少々気恥ずかしくなって下を向いて、慌てて答える。
「口の周りにパンつけてるようじゃ、嫌われるぞ」
「!」
小鳥遊はあわてて手の甲で口をゴシゴシ拭く。ちょうどその時、胸ポケットでケータイが鳴った。
「悪い。ちょっと出てくる」
俺はそう言うと、小鳥遊から数歩離れ、電話を取り出し通話ボタンをタッチした。
『宮が逃げた』
第一声に衝撃を与えられる。
「嘘だろ?縛ってちゃんと見張りつけてたんじゃねぇのかよ!?」
『見張り六人は全員ヤられてた』
「・・・マジかよ・・・じゃあ、まだあいつの居所は、宮と恵の居所は掴めてないのか・・・」
『そうだ』
ぱっと後ろを振り返ると小鳥遊がメロンパンを食べ終えたらしく、コートについたパンくずを払っていた。
今日行く、とだけ告げると俺は電話を切った。
「バスきたよ、野田」
小鳥遊に呼ばれて振り向き、俺はバスに乗り込む。通路を挟んで隣に小鳥遊が座る。
「なあ、小鳥遊はさ結構ネットとかする?」
気まぐれに問いかける。
「うん。結構使ってるかな」
「じゃあさ、ピエロ、いや、道化師セレネって知ってる?」
ガタンッ
いきなり小鳥遊の手からカバンが滑り落ちる。あわてて拾っているが、顔は真っ青になり指先は細かく震えている。
「セレネ・・・?知らないけど」
小鳥遊はそう言うと、下を向いた。指先だけだったはずの震えが全身に広がってる。
「おい、体調悪いのか?」
問いかけるが顔を横に振るだけで、返事はない。まさか、知ってる・・・?いや、そんなわけないか。セレネを知ってたら相当の裏の世界に入り込んでる証拠だしな。
「じゃあね、野田」
「ああ、気をつけて帰れよ?」
バスセンターで手を振り合い別々の乗り場へと別れる。その時に、小鳥遊が電話に向かっていった声が俺に聞こえることはなかった。
「宮、イルと接触した」
――――さあ、今日も夜を迎えた。
ネット上を騒がすのはアイドル。
裏の世界を騒がせるのは――、道化師セレネ。
道化師セレネとは、裏で中心的に活動するグループ。
主に十代から二十代前半のハッカー達の集まりである。
依頼を受ければ、ウイルスに感染させたり、退治したりする。
一つだけ言えるのは、悪い奴の味方はしない。
どんなに金を積まれようとも正しいことしかしない。
道化師セレネによって暴かれた犯罪は数知れず。
そんな道化師セレネを消してくれるように今回、依頼されたのは道化師セレネとはまったく対照的な位置にいる存在。
オーギュストというグループである。
オーギュストは道化師セレネとは違い、金さえ積まれればどんなことでもする。暴力団ともつながっており、表の世界でも活躍している。
道化師セレネの創始者である二人の直接の声掛けによって集まった彼らは、創始者の二人の意向によって夜は偽名を使い、変装している。
よって、昼に捕まえることは難しい。夜。それが裏の世界に住む者の活動時間。
その時に、全員を殺す。
創始者二名によって匿われている彼らは未だに誰ひとりとして捕まえられない。
さあ、どう殺してやろうか。
「あいつ、多分おいしかったけど、素直に言うのが恥ずかしかっただけなんすよ」
俺は一応フォローを入れておく。小鳥遊は真っ赤な顔をしてこっちを見ていた。まったく、美味しいならそういえばいいのに。
「ええ。大丈夫です。それより、彼女さんにこれあげてください。」
そう言って渡されたのは、メロンパン。
フランソアの発酵バターのメロンパン。
「彼女さんに、また来てねと伝えておいてくださいね?」
女神様は最高の美貌を最高の笑顔で最大限に生かした。俺の目はどうしても女神さまから離れない。
「彼女、じゃないっすよ」
俺はつぶやく。
そのときには、女神様はもう従業員用の部屋に入っていた。小鳥遊が歩いてくるのを見て、俺はあわてて従業員室から目を逸した。
「それ、ちょうだい」
小鳥遊は俺の手に握り締められている、メロンパンを指さした。
「ほらよ。」
「ねえ、、野田はさ。好きな人いないの?」
バス停でバスを待つ。小鳥遊はさっきもらった女神様からのメロンパンをおいしそうに頬張っている。
「俺?いないけど。」
「うっそだー。亀さん好きじゃない!?」
「別に好きじゃないし」
俺はそう言うと、目を細めた。
「あたしは、好きな人いるけどなぁ」
小鳥遊はオリオン座を見ながら言う。目が合うと、小鳥遊は元々はあまり可愛くないくせに今はどんなモデルにも負けないんじゃないかってくらい可愛かった。そんな眩しい笑顔に、俺は少々気恥ずかしくなって下を向いて、慌てて答える。
「口の周りにパンつけてるようじゃ、嫌われるぞ」
「!」
小鳥遊はあわてて手の甲で口をゴシゴシ拭く。ちょうどその時、胸ポケットでケータイが鳴った。
「悪い。ちょっと出てくる」
俺はそう言うと、小鳥遊から数歩離れ、電話を取り出し通話ボタンをタッチした。
『宮が逃げた』
第一声に衝撃を与えられる。
「嘘だろ?縛ってちゃんと見張りつけてたんじゃねぇのかよ!?」
『見張り六人は全員ヤられてた』
「・・・マジかよ・・・じゃあ、まだあいつの居所は、宮と恵の居所は掴めてないのか・・・」
『そうだ』
ぱっと後ろを振り返ると小鳥遊がメロンパンを食べ終えたらしく、コートについたパンくずを払っていた。
今日行く、とだけ告げると俺は電話を切った。
「バスきたよ、野田」
小鳥遊に呼ばれて振り向き、俺はバスに乗り込む。通路を挟んで隣に小鳥遊が座る。
「なあ、小鳥遊はさ結構ネットとかする?」
気まぐれに問いかける。
「うん。結構使ってるかな」
「じゃあさ、ピエロ、いや、道化師セレネって知ってる?」
ガタンッ
いきなり小鳥遊の手からカバンが滑り落ちる。あわてて拾っているが、顔は真っ青になり指先は細かく震えている。
「セレネ・・・?知らないけど」
小鳥遊はそう言うと、下を向いた。指先だけだったはずの震えが全身に広がってる。
「おい、体調悪いのか?」
問いかけるが顔を横に振るだけで、返事はない。まさか、知ってる・・・?いや、そんなわけないか。セレネを知ってたら相当の裏の世界に入り込んでる証拠だしな。
「じゃあね、野田」
「ああ、気をつけて帰れよ?」
バスセンターで手を振り合い別々の乗り場へと別れる。その時に、小鳥遊が電話に向かっていった声が俺に聞こえることはなかった。
「宮、イルと接触した」
――――さあ、今日も夜を迎えた。
ネット上を騒がすのはアイドル。
裏の世界を騒がせるのは――、道化師セレネ。
道化師セレネとは、裏で中心的に活動するグループ。
主に十代から二十代前半のハッカー達の集まりである。
依頼を受ければ、ウイルスに感染させたり、退治したりする。
一つだけ言えるのは、悪い奴の味方はしない。
どんなに金を積まれようとも正しいことしかしない。
道化師セレネによって暴かれた犯罪は数知れず。
そんな道化師セレネを消してくれるように今回、依頼されたのは道化師セレネとはまったく対照的な位置にいる存在。
オーギュストというグループである。
オーギュストは道化師セレネとは違い、金さえ積まれればどんなことでもする。暴力団ともつながっており、表の世界でも活躍している。
道化師セレネの創始者である二人の直接の声掛けによって集まった彼らは、創始者の二人の意向によって夜は偽名を使い、変装している。
よって、昼に捕まえることは難しい。夜。それが裏の世界に住む者の活動時間。
その時に、全員を殺す。
創始者二名によって匿われている彼らは未だに誰ひとりとして捕まえられない。
さあ、どう殺してやろうか。